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2008年9月 5日 (金)

リキ物語 第8話

 リキがマムシに噛まれた。
 今リキが、子供のとき三重県の宮川の上流へ連れて行きました。宮川ダムを越え、車で越えるには少し勇気がいる吊り橋を渡り、ここから落ちれば、助かるのは奇跡に違いない、でも自分は助かるだろうと勝手に思いながら、橋を渡り終え、さらにどんどん上流へ行きました。発電所のところで林道は終点になります。何台かの車が止めてありました。いつも、不思議に思うのですが、ここに車で来ている人々のほとんどは、山歩きに来ている人々のはずです。歩く事が目的でしょうから、少々たくさん歩いても楽しいはずです。ところが、その人々が乗って来た車は、終点からできるだけ近くに、団子のように止めてありました。コンビニの駐車場が入り口近くから詰まるのと同じ現象です。
 と思いながら、自分も団子の仲間入りをし、荷物を整えました。その夜は、どこかでキャンプをするつもりです。昔、いちリキが来る前に、山へキャンプに行く時は必ず運んだソニーファミリークラブの大テントはもうありません。この大テントの最後は、子供たちが庭に張りっぱなしして、基地として使われ、時々数人が泊まっていました。テントの横の栗の大木から、テントの屋根をトランポリンに見立ててジャンプ、完全に破壊に至りました。今使っているテントは一人用の軽量テントで1Kg少々の軽さです。炊事用具も最低重量のガソリンコンロとチタンの鍋兼どんぶり兼コヒーカップが一つだけです。スキーツアーでも、渓流釣りでも、荷物が10Kgを越えると、急に行動が制限されます。スキーでは、新雪を軽やかにターンする事ができなくなり、体は雪に沈み、急につまらない遊びになります。渓流では、岩から岩へ跳ぶ事ができません。一旦、水の中に入り、よっこらっしょとまた次の岩に登る事になります。
 子供の頃から、スキー大得意の叔父に連れられて、よく雪山に行きました。今は、スキーヤーとクライマー、さらにボーダーは、別々の種族に分類されています。ボーダーさんの多い斜面に、紛れ込んだりしますと、(ス)キーヤー、あっちイキヤーということになりますが、昔は山へ登る人とスキーをする人の境目はあまり定かでなかったのです。いまほど、ゴンドラやリフトは整備されていません。それに今のようにレジャーホテルなどもめったになく、山へ行く人の装備とスキーへ行く人の装備はあまり変わらなかったのです。でも、荷物の重量は違いました。学生時代、スキー部の合宿に入るときの荷物でもせいぜい20kgです。ところが、同じ大阪発長野行き、夜間急行“ちくま”に乗り合わせる同じ大学の山岳部やワンゲルの荷物は50kgだったそうです。荷物の軽い新入部員には訓練のためと称しレンガを入れてあるとも聞きました。こうなると、サドマゾの世界です。
 さて、宮川上流地帯、5kgほどのリュックを背負って、登山道に入りました。リキは1月生まれで、その年の6月末ですから、生後5ヶ月の少年です。発電所を過ぎてしばらくのところに片流れの岩場がありました。右手の岩に鎖が固定してあります。左はそのまま絶壁で、足を外すと20m下の川に落ちる事になります。リキはまだ高い所を通る訓練はできていません。彼のこれまで経験した一番高い所は、近所の公園の滑り台のはずです。リキにハーネスを付けました。にリキに、ローラーブレードを引っ張らせるために作ったハーネスです。もし、リキが足を踏み外し、ぶら下がった状態で暴れたら、ほんとうに引っぱり上げる事ができるかな、と心配しましたが、やはり彼はシェパードでした。人の後ろをちゃんとついて来てくれました。その後、大人になった今リキは高い所は平気になりました。家の新築工事現場で、3階の高さの足場に一人でリキが登っているのを見て驚いた事もありました。
 登山道を数キロ登った所の左側に、きれいな河原がありました。向こう岸は、一段高くなった段丘があり、広葉樹の森につながっています。いつも、渓流でキャンプをする時は、増水に備えて一段高い場所を選びます。川を渡り、森と河原の際にテントを張りました。昔、小学校の土佐先生に教えてもらった三角形の屋根型テントの時代は、張り方にもお作法がありましたが、今のテントは、傘をさすのとほとんど差がないくらい簡単に張れます。一応、四隅をペグで固定しました。
 最近、渓流で“キャンプ禁止”の看板をよく見かけます。キャンプは村営キャンプ場で、ともあります。まず、ここで言うキャンプとは、どこまでの事を言っているのかよく判りません。テントを張る事をキャンプと言っているのか、バーベキューをする事を言っているのか、単に寝るなと言っているのか、よく判らないのです。寝るだけならシュラフ一枚あればどこでも寝る事ができます。確かに、ダムの下流で、緊急放流により、テントが流される事はありますから、あと管理責任を追求されないよう、キャンプ禁止と書くのでしょう。これは、自分たちが危険な所にテントを張り、大雨が降っているにもかかわらず、退避もせず、公の機関に救助を求め、さらに、管理責任に対して補償を求める側に問題があります。自然の中での行動はすべて自己責任です。
 村営キャンプ上を作ってやったからそっちへ来い、はよく判りません。第一、村営キャンプ場は遥か下流、生活排水の混じった、泡の立つ水が流れる河原の公園の横にあります。電気とか水道はありますが、大型キャンピングカーで来たパパは野球中継を見、子供たちはテレビゲームをしている仲間にはなりたくありません。政府補助金があるあいだは営業をしていたのでしょうが、それが打ち切られると、打ち捨てられているキャンプ場もよく目にします。昔々、トミーが小学校1年生の時に、北海道へキャンプ旅行に行きました。キャンプ禁止、キャンプ禁止、キャンプ禁止キャンペーンは、本州よりも北海道に先に現れたようです。テントを張る場所を探すのに苦労しました。かなり奥深い林道に入りやっとテントが張れる場所を見つけました。当時乗っていた車は、旧型のランドクルーザーです。軍隊しか使わないような車がやっと通れる道の奥まで入ったので、やっと、ゆっくり寝られると思ったとき、営林署の職員二人が、日産パトロールに乗ってやって来ました。日産パトロールとは田舎の警察のために作った四輪駆動車です。「ここは立ち入り禁止です」「なぜですか?」「ここは国有林だから立ち入りはだめです」「私は、日本の国民です、国有林ならば国民が入ることができるはずです」「国民の森ではありません、国の森です」、「国と国民は違うのですか」「違います」どこかで聞いた事がある議論だと気がつきました。国を守ると言って、多くの国民を死に追いやった国があります。どうも、お役人は国と国民をはっきりと使い分けていらっしゃるようです。
 さて、リキと一晩過ごすキャンプもできました。テントの横に、ちょうど腰をかけるのに都合の良い倒木もあります。ふと見ると、倒木の向こう側に鎌首を持ち上げている蛇がいました。えらの張った三角形の頭、小判型の模様、そう、どう見てもマムシに見えます。でも、まだ子供らしく、せいぜい30cmぐらいの大きさでした。噛まれると具合がよろしくなさそうなので、石をなげて、林の中に行ってもらいました。いちリキにとってははじめてのフィールドワークです。まだ、それほど大きくはありませんから、テントの中に入れてあげても良かったのですが、暖かい季節です、訓練もかねて外で寝てもらう事にしました。夜中、テントの外でリキが吠えていました。それほど、警戒するような吠え方ではなく、誰かと遊んでいる時の吠え方です。狐でも来たかと思いつつ、眠いので、ほっておきました。
 翌朝、釣りの用意のため、4時起床、リキを呼びます。リキはテントと倒木の間で寝ていて、すぐにやって来ました。周りが少し明るくなって、そろそろ釣り始めようかと思ったとき、リキの鼻に赤い点が二つ付いているのに気がつきました。血です。それに、鼻から付け根にかけて腫れ上がっています。あっマムシ、と気がつきました。昨夜のリキの声は蛇に対して吠えていたのです。だから、遊び声だったのです。リキがからかって、蛇が反撃、鼻の二つの点は、ちょうど蛇の牙の間隔でした。もし、マムシなら、蛇毒血清、でも犬用があるのかどうか知りません。それに、リキの鼻は腫れていますが、普通に元気で、すこぶるご機嫌です。ショックに陥っているようには決して見えません。しばらく様子を見る事にしました。
 リキの鼻は2-3日腫れていました。あの蛇が、はたしてマムシであったのかどうか本当は不明です。夕方に見た蛇と、夜中にリキを噛んだ蛇が同じ蛇であるかどうかもわからないのです。インターネットで調べますと、アオダイショウの子蛇とマムシはとっても似た文様を持っていて、頭を三角にして、攻撃をしてくる事があるそうです。子マムシだったので、蛇毒が少なかったのかも知れません。例えば、マングースがそうであるように、犬族は蛇毒に対してヒトより抵抗力があるのかも知れません。
 ここでの思い出はリキにとって強烈であったらしく、ちょうど1年後、500mほど手前で、このキャンプ地を見つけ、一匹で走って行き、川を泳いで渡り、ここだここだと言って座って、私が着くのを待っていました。
 

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