医療

2010年2月 3日 (水)

羊水検査

 羊水検査について、お医者向けの専門書に原稿を送りました。妊婦さんやご家族にとっても重要な情報ですから、専門家以外の人々にも理解できるよう、書き直してここに掲載します。

 羊水検査(原文のタイトルは羊水穿刺です。羊水のある場所を羊水腔といいます。様々な目的で羊水腔に細い針を刺し、羊水の採取などを行う事を羊水穿刺と言います。羊水検査という言葉は、羊水中にこぼれている胎児の皮膚の細胞の染色体を調べる検査、羊水染色体検査をさしている事が多いようです。)
1、羊水穿刺
1)羊水穿刺の目的
 羊水染色体検査、胎内感染や絨毛羊膜炎の原因となっている菌種の決定、血液型不適合妊娠により羊水中に漏れ出した黄疸関連物質の計測、羊水過多や羊水過少に対して羊水を除去したり、人工羊水を注入するなどの目的で実施されます。
 羊水染色体検査は、安全性、検査結果判明までの時期が比較的短時間、検査結果が判明してからの行動決定までの時間的余裕などから妊娠16週が最も適切とされています。ここでは比較的実施件数の多い、妊娠16週での羊水穿刺につき説明します。
2)準備、使用器具
 多くの場合、外来で実施されます。穿刺を行う場所は清潔を保てるところが望ましく、外来手術室、処置室、分娩室などが用いられます。ガイドに用いる超音波プローブは、通常の経腹用超音波プローブに穿刺様ガイドをつけたものがよく用いられます。穿刺用ガイドを用いず、いわゆるフリーハンドで穿刺を行う人もいますが、この場合は、より熟練を要します。プローブと穿刺用ガイドの無菌化のためには、使い捨ての専用プローブカバーと穿刺用アタッチメントを用いることが一般的です(商品名:シブコプローブカバー、通称ロングブーツ)。穿刺用ガイドを用いる場合は23ゲージのPTC針(八光)と呼ばれる全長200mm程度の長い針が用いられます。普通の23ゲージの少し長めのカテラン針でも使えますが、穿刺用ガイドを用いると、30mmほど余分に長さが必要になるので、羊水腔に達しないことがあります。羊水吸引採取のため、延長チューブ、三方活栓、20mlディスポ注射噐、5mlディスポ注射器を用意します。5mlの注射器は、穿刺時に母体血液が混入した場合、5ml側に廃棄するために接続します。エコーゼリー代わりには20mlの生理食塩水を用います。1200mmx1200mm程度の清潔撥水覆布、穴は小さくて良いので、清潔はさみを用意し、術者が現場で開けます。局所麻酔には1%キシロカイン10ml、麻酔用23ゲージカテラン針を用意します。腹部の消毒は、開腹手術に準じ、術者は清潔手袋を着用します。
3)羊水穿刺の実際
 子宮のなるべく血管の少ないところで穿刺を行います。血管は側壁と子宮下部に多いため、なるべく正中に近い部位で、子宮底部に近い所を穿刺部位として選択します。穿刺方向は、母体頭側に向かって斜めに針が刺入するようにする方が安全です。母体頭側から足方に向かって穿刺する場合は、穿刺経路に腸管がある場合もあるので注意が必要です。子宮側方から穿刺する場合も同様、血管や母体の腸管に注意が必要です。胎盤を避けたいがために、子宮側方や、底部からの穿刺が選ばれることがありますが、腸管の存在が疑われる場合は、むしろ経胎盤穿刺を選んだ方がリスクは少ないと考えられます。胎盤を通過しない場合も胎盤を通過する場合でもカラードプラで血管を描写し、血管の多い部位は穿刺経路から避けるようにします。 妊娠週数の若いときは、絨毛膜と羊膜が解離しており、羊膜腔の外に穿刺針の先が入ると、うまく羊水が吸引できない事があります。


2  図 羊水穿刺の実際  妊娠16週、羊水染色体検査目的の羊水穿刺です。前壁付着胎盤で、胎盤と子宮底の間にわずかに隙間がありました。穿刺は母体のおへその下7cm、左右の真ん中、胎盤の上縁をかすめるように、母体頭側に向かって穿刺が行われました。羊水中にキラリと光っている部分が針の先端です。

 羊膜が穿刺針内に吸引されて、羊水が吸引できなくなることもあります。こわごわ、ゆっくりと穿刺を行うと、羊膜を通過していないことがあるので、子宮壁から羊水腔に針を刺入する時は一気にすばやく刺入するのがコツです。
 羊水穿刺の術者は一人のことも多いので、すべての操作が行いやすいようにあらかじめ器具をセットしておきます。スリットコネクターつきの延長チューブの使用など片手での操作性が良い器具を選びます。
 麻酔は1%キシロカインによる局所麻酔です。腹膜を通過するときにもかなりの痛みを感じるので、腹膜にも十分に浸潤させます。
  採取された羊水は、注射器のままきっちりとキャップを装着し、染色体検査、細菌検査などの試料にします。 

4)羊水穿刺の安全性
 羊水穿刺で危惧される事故に、破水、感染、出血があります。羊水検査を受けた胎児の1000分の3から 1000分の5 が妊娠を継続できなかったとする統計があります。1000分の3 とか 1000分の5という数字がどれぐらいの意味があるかを説明します。日本の周産期死亡率は、妊娠22週以後の胎児や新生児が死亡する率の事を言いますが、世界中で一番低く1000分の3.5です。すると、先に述べた1000分の3 とか 1000分の5 とかと言われる羊水穿刺のリスクは、周産期死亡率の中に埋没してしまい、統計的に有意とは言えません。つまり、羊水穿刺を行ったから生存できなかったのか、もともと何らかの病気があるから羊水穿刺が行われ、病気の為に生存ができなかったのかの区別はつきません。現在の超音波装置を用いて行われる羊水穿刺は、かなり安全な検査と考えてよろしい。しかし、多くの症例の中には、事故がない訳ではないので、羊水穿刺の前に行うご家族への文書での説明には、「破水、感染、出血などが原因で流産を来す事があります」と記述しています。

2008年11月13日 (木)

妊娠中の子宮外傷

転んでお腹を打ったと血相を変えて受診される患者さまは時々いらっしゃいます。でも実際に子宮出血などの症状のある方はごくわずかです。ある患者様、子宮内の出血の所見が見つかりました。こんなときどうなるのでしょうか。
 その後、無事に出産をした患者様からメールをいただきました。ご本人の了解を得てご披露します。

以下 メール;
 先生の病院に伺ったのは昨年8月の末、初めての妊娠に私も主人も大喜びで早いものであれから一年…
妊娠中の忘れることのできない10ヶ月、千葉先生には大変お世話になりました。
昨年8月の末、妊娠が判って喜びもつかの間、一週間後の妊娠9週目に私の不注意でおなかを打って、出血しすぐに先生に連絡し診察して頂きました。
先生は処置の後、不安で真っ暗な私に丁寧に状況を説明してくださいました。
そして自宅安静の日々が始まりました。まだ妊娠9週目、胎動もない私には先生が毎週診察して経過とともに「赤ちゃんは大丈夫」と言って下さることが支えでした。妊娠16週にして血腫も消失やっとふつうの生活に戻ることができました。
怪我をしたときの寝たきり生活は本当に辛かったけれど、先生のおっしゃる通り「後悔のないようにできる限りの事はしよう」という言葉に励まされました。
出産はオープンシステムで大阪厚生年金病院でしたが初産で不安でいっぱいの私に出産の際も入院中も大変親切にして頂きました。
でも出産の時、千葉先生が来て下さって顔を見た時にはまだ産まれてないのに何だかホッとして、とても心強くなりました。そして3202gの女の子を無事出産しました。Photo
先日四ヶ月検診に行ってきました。特に異常もなく、順調にすくすくと成長しています。
慣れないことばかりで慌ただしい毎日ですが、日々成長に驚かされ奮闘しながらも家族三人楽しく過ごしています。4今こうしてあるのも千葉先生をはじめ大阪厚生年金病院のスタッフの方々、たくさんの方にお世話になり、感謝の気持ちでいっぱいです。
私の初めての妊娠生活と出産、本当にいい思い出となりました。千葉先生に出会えて本当に嬉しく思います。心より感謝と御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

2008/09/06
nishioka

2008年4月24日 (木)

胎児水腫

 胎児水腫は、胎児の循環不全により胎児全体がむくんでしまった状態をいいます。同じような状態は、生まれてからのヒトにも起こり得ますが、生まれてからのヒトは肺で呼吸をしているため、からだ全体がむくんでしまうより先に、肺に水がたまる事により呼吸ができなくなります。この状態を肺水腫と言います。胎児は幸か不幸か、肺で呼吸をしていないため、胸腔内が水でいっぱいになっても生き続けます。腹水も溜まり、皮下浮腫で体全体が水ぶくれの風船のようになります。胎児水腫はこの症状を示す症候名です。胎児水腫に至る原因疾患はいくつかあります。まず、有名な疾患は、母親の血液型がRh陰性で、胎児がRh陽性の時に起こりえる胎児の溶血性貧血が原因となる胎児水腫です。免疫反応が原因なので免疫性胎児水腫と言います。Rh陰性のヒトが多い、ヨーロッパ諸国では、この免疫性胎児水腫を治療するためのセンターが作られました。胎児採血による診断と胎児輸血による治療を主な任務としています。同じような免疫性の胎児水腫は不規則抗体を持っているお母さんからも発生します。免疫性胎児水腫以外の原因による胎児水腫を非免疫性胎児水腫と言います。この中にはパルボB-19と呼ばれるリンゴ病原因ウィルスによる胎児感染もあります。この疾患は胎児の貧血を引き起こし、貧血による循環不全により胎児水腫をおこします。胎児輸血により治る機会がありますが、自然に治ってしまう例もあるようです。パルボB-19の感染病態はまだよく判っておらず、胎児にとって重症例も軽症例もあるようです。非免疫性胎児水腫のうち、胎児の心臓病に原因があるものを心原性胎児水腫と呼びます。形態異常の心疾患を原因とするものは治療や管理には困難を伴いますが、心拍数が普通より早い頻拍型の不整脈による胎児水腫は、胎内治療により治ってしまう事が知られています。原因不明の胸水による胎児水腫や、肺の中にできる嚢胞性の疾患などは、胸腔と羊水腔の間にシャントチューブと呼ばれるバイパスをいれる事により治療成功例があります。
 胎児水腫は確かに重症の疾患ですが、治療成功例がある事、そして治療成功例の多くは正常の日常生活を送っている事が知られています。
 

2008年4月 3日 (木)

前置胎盤移動説

 妊娠の初期に、あたかも前置胎盤であるかのように見えた胎盤が、妊娠が進行すると治ってしまった、という経験はよくあります。
 前置胎盤とは、胎盤が子宮の内側で子宮口を覆っているものをいいます。赤ちゃんが、子宮から出ようとすると、その出口に胎盤があるものですから、胎盤が先に剥がれてしまいます。胎盤が剥がれると大出血をするので、帝王切開により赤ちゃんを出す事になります。最近では皇室のどなたかが、この病気で帝王切開を受けられたのでご存知の方も多いようです。
 胎盤がしだいに子宮の上の方に移動する。この現象に気づいた人々が「胎盤移動説」という言葉を使ったものですから、聞いた方はびっくりしました。1979年、宮崎で行われた第2回世界超音波医学会でのことです。「移動」という言葉に「migration」が使われていました。ラテン語で「移動、移民」を表す言葉だと後で知りますが、当時私の知っていた「migration」は eを付けて emigration「移民局」もしくは「出入国管理事務所」ですからますます何の事か判らなくなりました。胎盤に足が生えてワッサワッサと歩いて行くような印象を受けました。そして、このテーマは私自身の研究テーマの一つとなります。ちなみに辞書を引くと、migrationの前につく e は中から外へ、自国から他国へ移民する場合につくようです。 
 胎盤があたかも上の方に移動して行くように見える要因は二つあります。Placenta1
 一つめ、妊娠の初期の胎盤を絨毛と呼びます。絨毛は、子宮内膜の中に根を生やすように発育し、胎盤になる部分と、根を生やさずに単なる膜になる部分とがあります。胎盤になる部分を絨毛有毛部、と言い、膜になる部分を絨毛無毛部といいます。妊娠の初期では、この有毛部と無毛部の移行部がまだあります。 この部分は、ある程度厚みがあるので、これが子宮口付近にあるとあたかも前置胎盤に見えます。
 二つ目、超音波画像で胎盤を見るとき、子宮を縦に切って横から見ている断層像で観察しています。子宮は元々、横から見たの断層像ではぺちゃんこです。子宮の内腔は1本の線にしか見えません。そこに妊娠をすると、羊水が溜まり、子宮腔は厚みをもってきます。中に風船を入れてだんだんとお水を入れて行くと考えてください。それを観察している人は、羊水腔の一番下が内子宮口だと思ってしまいますが、本当は、そこより遥か下の方に内子宮口があるのです。羊水腔が増えると、風船にお水を入れていく様に、羊水腔はしたの方まで広がります。見かけ上の内子宮口付近にあった胎盤は、遥か上の方に移動してしまいます。
 この、妊娠初期の前置胎盤のように見える状態を絨毛前置と呼びますが、普通は見かけ上の事が多いので、問題になりません。しかし、中には本当に前置胎盤になる例もありますから、引き続いて観察が必要です。一般的に言って出血を伴っている場合や、前回の分娩が帝王切開の場合は要注意です。 
 

  

2008年3月28日 (金)

おしっこの中で暮らす胎児君

 賢い日本のママたちの豆知識

 羊水はほとんどがあかちゃんのおしっこです。つまり、赤ちゃんはおしっこの中で暮らしている事になります。でもご心配なく、完全に無菌ですから、決して汚くはありません。妊娠の15週ぐらいから、あかちゃんの腎臓も大人の腎臓と同じようにおしっこを作ります。そして膀胱にためて周期的におしっこをします。おしっこは羊水として、あかちゃんの周りにたまります。あかちゃんは、さらにこの羊水を飲み込んでいます。そして、飲み込まれた羊水はあかちゃんの腸から吸収され、血液中に入り、胎盤を通ってお母さんの腎臓から体外に排出されます。もう一つ、子宮の中にたまっている羊水はあかちゃんの肺にとっても大切な働きをします。赤ちゃんの肺は羊水を入れたり出したりする事により成熟するのです。この肺に羊水を入れたり出したりする運動を胎児の呼吸様運動と言います。超音波で見るとこの呼吸様運動は観察する事ができます。生まれてからの赤ちゃんといっしょ、吸気が短く呼気が長いのです。オッ(吸気)、ギャー(呼気)、オッギャー、オッギャー。「オッ」よりも「ギャー」がはるかに長いのです。
 もしも羊水がなくなると胎児の肺は成熟しません。腎臓がなかったり、おしっこができないと肺は低形成となり、場合によっては命にかかわります。尿道が閉塞したため、おしっこができなくなる赤ちゃんの病気があります。腎臓もしだいに機能をなくしますが、もっと大切な事は、肺の機能。羊水量を保つためには、尿道がつまったためふくれあがった膀胱と羊水のあいだにバイパスを作ります。千葉とそのチームは日本で初めてこの胎児手術を行いました。

おなかの中の赤ちゃんの心臓病

 賢い日本のママたちの豆知識

 生まれてすぐに治療が必要な心臓病は見つけてあげたいものです。まず赤ちゃんの左と右の認識が大事。心臓が左に傾き、胃が左にあるのが正常。反対の場合は心臓病のことがあります。次に心臓の大きさと左右のバランス。心不全があると心臓は大きくなります。Tof
左右の大きさはほぼ同じ、片方が大きかったり、小さい場合は心臓病を疑います。そして大動脈と肺動脈、両方あわせて大血管といいますが、大血管は当初交叉し、後に平行に走行します。ここまで見れば、生まれてすぐに治療の必要な心臓病はほとんど判ります。
写真はファローと呼ばれる心臓病、胎内で見つける事で、出生後十分な管理と治療を受ける事ができます。

なぜ計るの赤ちゃんの大きさ

 賢い日本のママたちの豆知識

 赤ちゃんの大きさを測るのは、子宮内発育遅延を見つけるため。 おなかの中の赤ちゃんは生活環境が悪くなると、動物の冬眠のように発育を止めます。さらに環境が悪くなると、生命の危険もあり得ます。発育遅延を見つけたら、入院など重点管理。生命の危険があれば、分娩をさせて未熟児医療にバトンタッチです。頭の大きさと、お腹周り、大腿骨の長さから、統計学的に体重を推定します。旧石器時代の人類の骨から当時の人の身長を推定するのと同じ手法です。赤ちゃんは未来の人類です。

2008年3月11日 (火)

臍帯動脈が1本と言われた。

  賢い日本のママたちの豆知識

 普通、臍帯動脈は2本あります。1本の場合を単一臍帯動脈といいます。他にはなんの病気も合併していない事も多く経験します。胎児の心臓病や、染色体異常に伴う胎児の心臓病に合併している事もあるため、染色体異常のスクリーニングの一つの項目に挙げられています。そのため、胎児頸部の浮腫・NTと同じように、単一臍帯動脈は恐い病気と誤解される事があります。短絡的に胎児の重い病気だとか、染色体異常だと思う事はさけましょう。胎児の心臓病をはじめ超音波による精査は十分にしてもらってください。胎児に特別な病気がなくても、子宮内発育遅延や、分娩中の循環不全の理由になる場合があります。胎児の発育診断は繰り返し受け、発育遅延があれば、入院管理が必要です。妊娠中や分娩中の胎児心拍数のモニタで異常所見が出れば、緊急帝王切開となります。緊急帝王切開のできる施設、未熟児医療ができる施設での分娩が推奨されます。Singlea写真は膀胱の片方だけに見えている単一臍帯動脈です。普通は膀胱の両側に2本見えます。この方は、単一臍帯動脈による循環不全の影響で妊娠初期に胎児頸部の浮腫・NTが観察されました。染色体検査の結果は正常。十分な監視のもと経膣分娩で元気な赤ちゃんが生まれました。

2008年1月24日 (木)

NT 胎児頸部浮腫 胎児ドック

  賢い日本のママたちの豆知識

 あなたの赤ちゃんの首にむくみ NT があると言われて、とっても心配しているママから相談を受けます。
 千葉がお医者向けの参考書にNTについて投稿しました。それを判りやすく書き直しました。
 参考になさってください。

 胎児の頚部のむくみ;NTとは何でしょう。

 NT(Nuchal Translucency)とは妊娠初期の胎児の後頭部から後頚部のむくみのことを言います。胎児は循環のバランスが少しずれることに皮下にむくみが生じることがあります。NTも循環のアンバランスによって生じた皮下浮腫と考えてよろしい。
 国によっては、染色体異常のスクリーニングとしてNTを使っている場合がありますから、NTを直接染色体異常と関連付けて話がされる場合があります。
 しかし、わが国の医療のあり方、母体保護法や、医療経済のあり方からすると、NTと染色体異常を直接結びつけることは誤解の原因となります。
 まず、3mm以上のNTがあっても、児になんら疾患が認められない場合が70%あることに注目しましょう。これは、何らかの一過性の循環のアンバランスにより生じた皮下浮腫と考えられます。
 双胎は循環がアンバランスになることが多く、双胎の1児あるいは両児に一過性の頚部浮腫をみることもしばしば経験します。
 臍の緒には2本の動脈と1本の静脈がありますが、動脈が1本の場合、単一臍帯動脈と呼びます。正常に経過し分娩後に初めて単一臍帯動脈わかる場合も多くありますが、ある種の染色体異常にもよくみられるため、染色体異常のスクリーニングにも使われます。しかし、単一臍帯動脈により循環不全をきたし頚部浮腫(NT)が発生することもありますから、両方があるから染色体異常の確率が高いとはいえません。
 NT(胎児後頚部のむくみ)が観察され、その原因となる可能性がある状態を記述しますと;
1) 正常胎児の一過性の循環不全、
2) 心疾患を合併する胎児の循環不全、
3) 染色体異常に伴う心疾患による循環不全、
4) 頚部リンパ管腫、
5) 染色体異常に伴う頚部リンパ管腫、
6) 感染症に伴う一過性の循環不全、
7) 双胎の循環不全、
などが考えられます。
 いずれも胎児病を診断する立場からは重要な事項であるので、NTを見たらさらに詳しく胎児診断を行うことが、正しい結論となります。
 では、NTが観察された場合の医療側の基本的な行動とはまず、
1) 妊娠15~16週で超音波胎児精査を行う。
 この時期に行う理由は、妊娠16~17週で染色体検査を行うかどうかの判断材料を提供ができます。 また重症の心疾患や中枢神経系疾患の診断がこの時期に可能なことが挙げられます。
2) 妊娠16週以後、充分なカウンセリングと羊水検査
 染色体検査の意義、リスク、結果が判明した後の行動決定に至るまでの考え方、など理解が得られた場合、羊水染色体検査を実施します。患者の不安を取り除くことが最も大切です。
3)さらに心疾患などの胎児の精査
 染色体診断が結論を得た後も、さらに妊娠20~25週で胎児心疾患精査も含め胎児の超音波による精査を行います。
 そして、その胎児に最も適した管理方法を検討することが大切です。

切迫流産

賢い日本のママたちの豆知識

切迫流産とは

 流産とは胎児もしくは胎芽が生きたまま排出されるものだと信じられていた時代があります。そんなに古い時代の事ではありません。動いて見える超音波断層装置ができるまでは、ほとんどの人々はそのように信じていました。だから、流産の予防には安静が必要であり、黄体ホルモン剤や、ヒト胎盤性ゴナドトロピン(hCG)の投与により流産は予防できると信じられていました。現在でもこれらの薬剤の効能・効果には切迫流産の記述があります。わが国で電子スキャン超音波断層装置が実用化したのは1976年のことです、それ以後、妊娠初期流産の大部分は胎芽・胎児死亡が先行している事が現実のものとして理解されました黄体ホルモンやhCGが切迫流産に効果があるとされた根拠は流産の予後不良例の血中の黄体ホルモンやhCG値が低い事が知られていたためですが、電子スキャン超音波断層装置は、hCGや黄体ホルモン値が低いのは胎芽死亡の結果であることを証明しました。
 妊娠初期の胎児死亡の多くの原因は、妊娠した卵の致死性の染色体異常に基づくものだと言う事が、判っています。健康な母からも、たまたま染色体異常の妊娠卵は発生します。従ってすべての妊娠のある程度は、確率的に流産にいたるので、一度流産をしたからといって、悲観的になる必要は全くありません。

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