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2008年4月 3日 (木)

前置胎盤移動説

 妊娠の初期に、あたかも前置胎盤であるかのように見えた胎盤が、妊娠が進行すると治ってしまった、という経験はよくあります。
 前置胎盤とは、胎盤が子宮の内側で子宮口を覆っているものをいいます。赤ちゃんが、子宮から出ようとすると、その出口に胎盤があるものですから、胎盤が先に剥がれてしまいます。胎盤が剥がれると大出血をするので、帝王切開により赤ちゃんを出す事になります。最近では皇室のどなたかが、この病気で帝王切開を受けられたのでご存知の方も多いようです。
 胎盤がしだいに子宮の上の方に移動する。この現象に気づいた人々が「胎盤移動説」という言葉を使ったものですから、聞いた方はびっくりしました。1979年、宮崎で行われた第2回世界超音波医学会でのことです。「移動」という言葉に「migration」が使われていました。ラテン語で「移動、移民」を表す言葉だと後で知りますが、当時私の知っていた「migration」は eを付けて emigration「移民局」もしくは「出入国管理事務所」ですからますます何の事か判らなくなりました。胎盤に足が生えてワッサワッサと歩いて行くような印象を受けました。そして、このテーマは私自身の研究テーマの一つとなります。ちなみに辞書を引くと、migrationの前につく e は中から外へ、自国から他国へ移民する場合につくようです。 
 胎盤があたかも上の方に移動して行くように見える要因は二つあります。Placenta1
 一つめ、妊娠の初期の胎盤を絨毛と呼びます。絨毛は、子宮内膜の中に根を生やすように発育し、胎盤になる部分と、根を生やさずに単なる膜になる部分とがあります。胎盤になる部分を絨毛有毛部、と言い、膜になる部分を絨毛無毛部といいます。妊娠の初期では、この有毛部と無毛部の移行部がまだあります。 この部分は、ある程度厚みがあるので、これが子宮口付近にあるとあたかも前置胎盤に見えます。
 二つ目、超音波画像で胎盤を見るとき、子宮を縦に切って横から見ている断層像で観察しています。子宮は元々、横から見たの断層像ではぺちゃんこです。子宮の内腔は1本の線にしか見えません。そこに妊娠をすると、羊水が溜まり、子宮腔は厚みをもってきます。中に風船を入れてだんだんとお水を入れて行くと考えてください。それを観察している人は、羊水腔の一番下が内子宮口だと思ってしまいますが、本当は、そこより遥か下の方に内子宮口があるのです。羊水腔が増えると、風船にお水を入れていく様に、羊水腔はしたの方まで広がります。見かけ上の内子宮口付近にあった胎盤は、遥か上の方に移動してしまいます。
 この、妊娠初期の前置胎盤のように見える状態を絨毛前置と呼びますが、普通は見かけ上の事が多いので、問題になりません。しかし、中には本当に前置胎盤になる例もありますから、引き続いて観察が必要です。一般的に言って出血を伴っている場合や、前回の分娩が帝王切開の場合は要注意です。 
 

  

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